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信用金庫理事長

経済

理事長の朝は早い。午前5時には本店に出社して、各支店長からの報告書を点検する。

 

おい、何だこりゃ?ったく、あれほどベンチャーに融資するときは注意しろと言ったのに!あの野郎、今度の会議で吊し上げてやる。

・・・うん?今度は「卒業生」*1にやってやがる!

ったく、どいつもこいつも、ボンクラの支店長ばかりじゃねーか!

理事長は、タバコを乱暴に引っ掴むと、一本取り出して、火をつけた。

薄暗い店内、じっと目を閉じて黙考する。静けさが逆に神経を苛立たせる。

落ち着け。うちは九州の一地方の信用金庫にすぎん。UFJみたいに、東大生を腐るほど採用できるはずもないではないか。

かく云う俺だって、近くの腐ったような三流大学の出だwしかし、この預金量では、早晩、どこかと合併せざるを得んな・・・いや、正確には、吸収されちまうわけだ。九州だけになw

「おはようございます」

NO2の専務理事が、薄ら笑いを浮かべながら、ちょこまかとやってきた。理事長の「腰ぎんちゃく」だけで、ここまで上り詰めた冴えない小男である。

「ああ」とだけ、顔も上げもせず、理事長は答えた。

こいつは、全くどうしようもない、おべっか使いだけが取り柄の、アホだが、その分、寝首を掻かれる心配はないし、便利屋としては悪くない奴だ。

 

専務理事は、確かに無能だったが、それでも最近の保守的な経営姿勢には疑問を持っていた。

うむ、理事長のお蔭で、ここいらの、特にベンチャーや若手の経営者は困ってる。これでは、地域の金融機関として責任放棄ではないか?

部下たちからも、路線を転換するように、理事長を説得してほしいとせっつかれていた。

そうだな、何時までも腰ぎんちゃくでもないよな。男一匹、ここは勇気を振り絞って、どげんかせんといかん!

よーし、友達の河童を入れよう。

専務理事は、こっそりと裏口から、河童を招き入れた。

専務理事の自宅は、大きな池の近くにあり、先祖代々、河童族とは仲良くしていた。専務理事の悩みを聞いた河童は、妙案を思いついた。

「いいかい。河童族にはね、体をミクロレベルに小さくできる特技があるんだ。それで、理事長の頭に入って、脳みそをコチョコチョすれば、考えが変わるよ!」

専務理事は、気づかれないように、理事長の背後に回り、羽交い絞めにした。

「な、何するんだ!」

「す、すみません、でも、これも会社の将来のためなんです!」

河童は、素早く行動した。理事長の口を無理やり開けると、小さくなり、侵入した。

「!・・・おっ、モゴゴゴ・・・」

理事長は暴れたが、後ろでしっかりと押さえていた。

そして、河童が脳に入ると、クスグリ作戦を始めた。

「ギャハハハ!!!!おい、おい!止めてくれ!くすだっくてたまらん!」

理事長は床に倒れ、のたうち回った。

10数分して、河童は無事に口から脱出して、現場を去った。

理事長は、ぼんやりしていたが、やがて正気に戻った。

「理事長、大丈夫ですか!」

「ああ、俺はどうしたんだ?」

「疲れがたまってたんでしょう。ウトウトして、イスから転げ落ちてしまったんですよw」

「ああ、そうかwすまんが、起こしてくれんか。それから、水を一杯頼むよ」

「はい、只今!」

そういうわけで、理事長は人が変わったように善人になり、信用金庫の評判もうなぎ上りで、めでたしめでたし。

 

信用金庫の力――人をつなぐ、地域を守る (岩波ブックレット)

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*1:従業員300人以下、または資本金9億以下の中小企業が融資対象なので、それより大きく成長した会社を俗にそう呼ぶ。

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